小児近視の治療法|オルソケラトロジーから低用量アトロピンまで専門医が解説
お子さまの近視、放置していませんか?
小児近視は、もはや他人事ではありません。実際、日本の小児における近視有病率は36.8%に達しており、特に8歳前後で発症のピークを迎えています。さらに深刻なのは、近視の発症が年々低年齢化していること。かつては小学校高学年で気づくことが多かった近視が、今では就学前から始まるケースも珍しくないのです。
タブレット端末の普及、コロナ禍による生活様式の変化、環境要因が子どもたちの目に与える影響は、想像以上に大きいのです。
この記事では、小児近視の治療法について、最新のエビデンスに基づいて解説します。オルソケラトロジー、低用量アトロピン点眼、デフォーカスレンズなど、お子さまの近視進行を抑える選択肢は確実に広がっています。早期発見と適切な治療が、将来の視力を守る鍵になるのです。

小児近視が「世界的流行」と呼ばれる理由
近視は単なる屈折異常ではありません。
眼球の奥行き(眼軸長)が伸びることで起こる構造的な変化であり、一度伸びた眼軸は基本的に元に戻らないのです。健康な人の眼軸長は約23mm前後ですが、強度近視では30mm近くまで伸びることもあります。この物理的な変化こそが、近視を「治りにくい」ものにしている根本原因です。
6歳未満の子どもの20%に異常が
医学文献によれば、6歳未満の小児では20%が何らかの眼科的異常を有しており、その中で最も一般的なものが屈折異常、つまり近視なのです。次いで斜視と弱視が続きます。この数字は決して軽視できるものではありません。むしろ、就学前からの注意深い観察と早期介入の必要性を示しています。
近視の合併症リスクとは
近視が進行すると、単に「遠くが見えにくい」だけでは済まなくなります。網膜剥離、網膜新生血管、早期白内障、緑内障など、これらの深刻な合併症のリスクが、近視の重症度と相関して高まるのです。特に高度近視の小児では、症候群性近視の可能性も検討する必要があります。
近視進行を抑える最新治療法
幸いなことに、近視進行抑制の分野は近年飛躍的に進歩しています。
かつては「近視は仕方ない」と諦めるしかなかった時代から、今では科学的根拠に基づいた複数の治療選択肢が利用可能になりました。ここでは、エビデンスレベルの高い代表的な治療法をご紹介します。
オルソケラトロジー:夜間装用で日中裸眼生活
オルソケラトロジーは、特殊なカーブを持つハードコンタクトレンズを就寝中に装着する治療法です。
レンズが角膜の形状を一時的に平らにすることで、焦点を後方にずらし、日中は裸眼で良好な視力を得られます。矯正量には限界があり、ガイドラインでは4ジオプトリーまでの近視が対象とされています。
近視進行抑制効果については、2005年以降世界中から多数の研究が報告され、メタ解析も実施されています。装用開始2年間で、近視進行をおおよそ32~63%抑制することが示されており、現在最も信頼性が高い近視進行抑制治療法の一つと認知されています。
低用量アトロピン点眼(リジュセアミニ点眼液):世界で最も広く行われる治療
低用量アトロピン点眼は、近視進行を抑える方法として世界で最も広く行われている治療です。
もともと1%のアトロピン点眼は、小児の斜視や弱視の診断・治療に長く使われてきました。これを20~100倍に薄めた0.01~0.05%の低濃度点眼には、点眼しない場合と比べて、点眼を始めた最初の1年間で近視の進行をおよそ30~70%抑える効果があることがわかっています。
濃度が低いため、副作用はほとんどありません。通常のアトロピンでみられる「瞳が大きく広がってまぶしい」「手元が見えにくい」といった症状もほぼ起きず、使い方は1日1回、寝る前にさすだけなので、とても手軽です。
当院では、2024年12月末に近視進行抑制治療薬として初めて厚生労働省の承認を受けた参天製薬のリジュセア®ミニ点眼液0.025%を扱っております。
子供の近視〜オルソケラトロジーと低用量アトロピンの併用
単独でも効果的な治療法ですが、組み合わせることでさらに高い近視進行抑制効果が期待できます。
オルソケラトロジーは光学的、アトロピンは薬理学的であり、両者の作用機序は異なる可能性が高いのです。前向き臨床研究では、両者の併用により相加効果があることが報告されています。
低用量アトロピン点眼により、わずかに大きくなった瞳孔から入る光は、オルソケラトロジーによる光学的効果も高めると考えられています。2020年に発表された研究では、オルソケラトロジー単独治療のグループと比較して、低用量アトロピン併用グループではすべての期間で有意に近視進行抑制効果が確認されました。
当院での小児近視治療アプローチ
十川眼科では、お子さま一人ひとりの状態に合わせた治療計画を立てています。
早期発見のための定期検診
近視の発症と進行の早期発見は、近視制御戦略にとって不可欠です。当院では、学校検診で「要受診」と言われた場合はもちろん、ご家庭で「目を細めて見る」「テレビに近づく」などの兆候に気づいたら、すぐに受診していただくことをお勧めしています。
生活習慣指導の重要性
治療と並行して、生活習慣の改善も肝要です。
近距離作業を長時間続けないこと、読書やスマホ、ゲームをするときの近業は1時間したら15分の休憩をすること、学校の休み時間はなるべく外で遊ぶこと、これらは基本ですが、極めて重要な予防策です。
屋外活動の増加は、近視進行抑制に有効であることが複数の研究で示されています。自然光を浴びることが目の健康に良い影響を与えるのです。
個別化された治療選択
当院では、お子さまの年齢、近視の程度、生活スタイル、ご家族の希望などを総合的に考慮して、最適な治療法をご提案しています。
治療開始後も、定期的な眼軸長測定と視力検査を行い、効果を確認しながら必要に応じて治療計画を調整していきます。
よくある質問(Q&A)
Q1: 近視は遺伝するのでしょうか?
はい、遺伝的要因は近視発症に大きく関わっています。親のどちらかが近視だと子にも近視傾向が出やすく、両親ともに近視の場合はさらにリスクが高まります。ただし、遺伝だけでなく環境要因も重要であり、適切な生活習慣と早期治療により進行を抑えることは可能です。
Q2: オルソケラトロジーは安全ですか?
適切な管理下で使用すれば、安全性の高い治療法です。ただし、ハードコンタクトレンズを使用するため、正しいケア方法を守ることが必須です。当院では、装用開始前に十分な指導を行い、定期的なフォローアップで角膜の状態を確認しています。
Q3: 低用量アトロピン点眼はいつまで続けるのですか?
一般的には、近視の進行が止まる20代前半まで継続することが推奨されます。ただし、お子さまの状態により個別に判断します。定期的な検査で眼軸長の伸びが安定してきたら、医師と相談しながら中止のタイミングを検討します。
Q4: 治療費はどのくらいかかりますか?
近視進行抑制治療の多くは自由診療となります。オルソケラトロジーは初期費用と定期的なレンズ交換費用、低用量アトロピン点眼は月々の点眼薬代、近視管理用眼鏡は眼鏡の購入費用がかかります。詳細な費用については、当院にお問い合わせください。
Q5: すでに強度近視になっている場合、治療は意味がないのでしょうか?
いいえ、強度近視であっても治療の意義はあります。むしろ、強度近視ほど合併症のリスクが高いため、これ以上の進行を抑えることが重要です。また、中等度~強度近視の方が弱度近視よりも抑制効果が大きいという報告もあります。諦めずにご相談ください。
まとめ:お子さまの未来の視力を守るために
小児近視は、もはや「仕方ない」と諦める時代ではありません。
オルソケラトロジー、低用量アトロピン点眼など治療選択肢は確実に広がっています。そして、これらを適切に組み合わせることで、さらに高い近視進行抑制効果が期待できるのです。
早期発見と早期介入が、お子さまの将来の視力を守る鍵になります。「最近目を細めて見ている」「学校の視力検査で引っかかった」そんな兆候に気づいたら、ぜひ一度十川眼科にご相談にいらしてください。


