白内障手術の費用内訳〜保険適用から自己負担額まで徹底解説
白内障手術の費用はいくらかかる?保険適用の有無で大きく変わる自己負担額
白内障は加齢とともに誰もが発症する可能性が高い眼の病気です。80歳以上ではほぼ100%の方が発症するとされており、私たちにとって非常に身近な疾患といえるでしょう。
白内障の根本的な治療法は手術のみです。日本国内では年間約160万件もの白内障手術が行われており、最も実施されている外科手術となっています。
しかし、手術を検討する際に気になるのが費用面ではないでしょうか。白内障手術の費用は、使用する眼内レンズの種類や保険適用の有無によって大きく変動します。
本記事では、眼科専門医の立場から、白内障手術にかかる費用の内訳を保険適用の有無別に詳しく解説します。また、高額医療費制度などの活用方法についても触れていきます。
手術を検討されている方はもちろん、将来的に白内障手術を受ける可能性のある方も、ぜひ参考にしてください。

保険適用される白内障手術の費用相場
白内障手術で最も費用に差が出るのは「保険が適用されるかどうか」です。
保険適用となるのは、単焦点眼内レンズを選択した場合のみです。多焦点眼内レンズを希望した場合は、保険適用外または一部適用(選定療養)となります。
まずは、保険適用となる一般的な単焦点レンズを使用した白内障手術の費用相場を見ていきましょう。
単焦点レンズの日帰り手術費用
保険診療で定められている白内障手術の基本費用は、3割負担の場合「片目:36,300円」程度です。ただし、麻酔や薬剤費、リカバリ室の有無などの診療体制によって、施設ごとに多少の差異があります。
自己負担割合別の費用目安は以下の通りです。
- 3割負担の方:片目約45,000円
- 2割負担の方:片目約30,000円
- 1割負担の方:片目約15,000円
これらの費用は日帰り手術を想定したものです。現在の白内障手術は、ほとんどが入院を伴わない日帰り手術で行われています。
入院を伴う場合の手術費用
高血圧や糖尿病などを治療中で、内科との連携が必要な場合には入院が必要になるケースもあります。その場合は入院に関わる費用が別途発生します。
単焦点レンズでの入院を伴う手術費用目安(1割負担)は以下の通りです。
- 片目手術の場合:約23,000円+差額ベッド代+食事代
- 両目手術の場合:約38,000円+差額ベッド代+食事代
入院期間は、安全に余裕をもって行うために手術前日入院、術後1〜2日目退院を基本としている医療機関が多いようです。
自己負担割合の確認方法
年齢や所得に応じて、保険診療の自己負担額は1割・2割・3割に分類されます。ご自身の負担割合はどれにあてはまるか、事前に確認しておきましょう。
- 自己負担割合1割:75歳以上の方。ただし現役並み所得者は3割負担
- 自己負担割合2割:70歳〜75歳未満の方、および6歳未満の未就学児。ただし現役並み所得者は3割負担
- 自己負担割合3割:6歳〜70歳未満の方、および70歳以上の現役並み所得者
現役並み所得者とは、課税所得が145万円以上の医療被保険者、および同一世帯内の医療被保険者の方を指します。
保険適用外(自由診療)の白内障手術費用
多焦点眼内レンズを使用する場合は、超音波・レーザーのいずれの手術方式を選んでも、基本的に保険が適用されない自由診療となります。
また、単焦点レンズでもレーザー手術を受ける場合は自由診療となるのが一般的です。
多焦点眼内レンズとは、ピントが合う距離を2点以上に設定することが可能なレンズです。これにより、日常生活のほとんどの場面でメガネの装用を必要とせず、裸眼でものを見ることができるようになります。
「術後メガネの装用を極力減らしたい」「まとめて老眼や屈折異常を治したい」という方にとっては、多焦点眼内レンズの方が術後の生活がより良いものとなる場合があります。
多焦点レンズの日帰り手術費用
多焦点レンズを使用した日帰り手術の費用目安は以下の通りです。
- 超音波白内障手術:片目約40万円〜60万円
- レーザー白内障手術:片目約50万円〜
これらはいずれも日帰り手術を想定したものです。入院などが伴う場合は別途費用が加算されます。
多焦点眼内レンズは種類も豊富で、メーカーや生産国、それぞれのレンズ特性によって価格が異なります。
術後の見え方を左右する重要な選択となりますので、眼科医とよく相談した上で、ご自身のライフスタイルに合ったレンズを選ぶことが大切です。
選定療養対象の多焦点眼内レンズ
多焦点眼内レンズの中には、「選定療養」という制度が適用されるレンズもあります。
選定療養とは、保険診療と自由診療(自費)を併用することができる制度です。代表的なものとしては、「差額ベッドへの入院」が挙げられます。
多焦点眼内レンズの中で、厚生労働省に認可されたレンズは選定療養の対象となり、自己負担額を抑えて白内障手術を受けることが可能です。
選定療養対象となるレンズは、国内で認可されたもののみとなります。具体的には、テクニスマルチフォーカル、テクニスシナジー、パンオプティクス、ファインビジョンなどが該当します。
高額医療費制度の活用方法
白内障に限らず、すべての医療費において「高額療養費制度」という、医療費が高額になった場合に還付を受けられる制度があります。
これは、高額な医療費が国民の生活を圧迫することのないよう定められた制度で、同一月(1日から月末まで)の窓口負担が一定の限度額を超えると、超過分が健康保険組合、協会けんぽ、または市町村など、加入している健康保険の窓口から払い戻し(還付)されるという仕組みです。
限度額適用認定証について
高額療養費制度では、限度額を超えた医療費は3か月後に払い戻されます。しかし、あらかじめ医療機関に「限度額適用認定証」を提示しておけば、窓口では限度額までの支払いで済みます。
限度額適用認定証は、加入している健康保険組合や協会けんぽ、市町村の国民健康保険窓口などで申請できます。事前に取得しておくと、高額な医療費の一時的な負担を軽減できますので、白内障手術を予定されている方は、ぜひ活用を検討してみてください。
医療費の世帯合算について
同一月に同一世帯で発生した21,000円以上の医療費、および一人が複数の医療機関でそれぞれ21,000円以上支払った医療費は合算することができます。
ただしこれは70歳未満の場合で、70歳以上の方は全額を合算できます。
両眼の白内障手術を別々の月に分けて受ける場合と、同じ月に受ける場合では、高額療養費制度の適用結果が異なることがあります。手術の時期については、費用面も考慮して医師と相談されることをお勧めします。
自己負担限度額について
高額療養費制度における自己負担の限度額は、年齢(70歳以上または未満)および所得水準によって変動します。
70歳未満の方の自己負担限度額は、単純に年収と国保・健保の種類で算出できます。一方、70歳以上の方は計算が少々複雑になります。
また、過去1年以内に3回以上、上限額に達した月がある場合、4回目からは「多数回該当」とされ、自己負担の上限額が下がります。
具体的な限度額については、加入している健康保険の窓口や医療機関の医療相談室などで確認することをお勧めします。
白内障手術の費用を抑えるためのポイント
白内障手術の費用を少しでも抑えたいと考える方は多いでしょう。ここでは、費用負担を軽減するためのポイントをいくつかご紹介します。
手術時期の検討
白内障は進行性の疾患ですので、早期に手術を行えば視力の回復も良好なケースが多いです。しかし、費用面を考慮すると、以下のような検討も可能です。
- 両眼の手術時期:高額療養費制度を活用するなら、同月内に両眼の手術を行うと自己負担限度額の恩恵を受けやすい
- 年齢による負担割合の変化:70歳や75歳の誕生日を迎える前後で、自己負担割合が変わる可能性がある
ただし、視力低下が日常生活に支障をきたしている場合は、費用面だけでなく生活の質も考慮して手術時期を決めることが大切です。
眼内レンズの選択
眼内レンズの選択は、術後の見え方に大きく影響します。費用面だけで選ぶのではなく、ご自身のライフスタイルに合ったレンズを選ぶことが重要です。
単焦点レンズは保険適用となるため費用は抑えられますが、術後はある距離にしかピントが合わないため、近くを見るための老眼鏡や、遠くを見るための眼鏡が必要になる場合があります。
一方、多焦点レンズは費用は高くなりますが、術後のメガネ依存度が大幅に減少するというメリットがあります。長期的な視点で考えると、メガネ代の節約にもつながる可能性があります。
日常生活でメガネの装用が煩わしくないという方には、基本的には保険適用となる単焦点眼内レンズがおすすめです。
医療費控除の活用
1年間(1月1日から12月31日まで)に支払った医療費の合計が10万円(または所得の5%)を超えた場合、確定申告で医療費控除を受けることができます。
白内障手術の費用だけでなく、通院にかかった交通費や、手術前後の診察・検査費用なども医療費控除の対象となります。
特に自由診療で多焦点レンズを選択した場合は、高額な費用がかかりますので、医療費控除を活用することで税金の還付を受けられる可能性があります。
まとめ:白内障手術の費用と選択肢
白内障手術の費用は、使用する眼内レンズの種類や保険適用の有無によって大きく変わります。
保険適用となる単焦点レンズの場合、自己負担割合に応じて片目あたり約15,000円〜45,000円程度です。一方、保険適用外となる多焦点レンズの場合は、片目あたり約40万円〜60万円程度の費用がかかります。
費用負担を軽減するためには、高額療養費制度や限度額適用認定証、医療費控除などの制度を活用することが有効です。
白内障手術は視力回復のための重要な治療法です。費用面だけでなく、術後の生活の質も考慮して、ご自身に最適な選択をしていただければと思います。
手術を検討されている方は、まずは眼科医院で詳しい検査と説明を受け、ご自身の状態や希望に合った治療法を選択することをお勧めします。
当院では、患者さん一人ひとりのライフスタイルや希望に合わせた丁寧な説明と、安全で確実な手術を心がけております。白内障でお悩みの方は、ぜひ一度ご相談ください。

著者情報
医療法人社団光健会 十川健司
日本眼科学会専門医・網膜硝子体学会所属
医学博士・眼科手術学会所属
視覚障害書用補装具適合判定医
ボトックス施注資格認定医