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白内障手術後の注意点〜安全な回復のための7つのポイント

白内障手術後の回復と注意点の重要性

白内障手術は年間約120万件も行われる非常に一般的な手術です。手術自体は10〜20分程度で終わる日帰り手術が主流となっていますが、その後の回復過程において適切なケアが必要です。

手術後の過ごし方が術後の経過に大きく影響します。特に術後1週間は目の表面についた傷が残っている可能性があり、細菌感染のリスクを避けるための注意が必要な期間です。

私は眼科医として多くの白内障手術を行ってきましたが、術後の注意点を守ることで合併症のリスクを大幅に減らし、スムーズな回復につながることを日々の診療で実感しています。手術の成功は術後のケアにかかっているといっても過言ではありません。

今回は白内障手術後の安全な回復のために知っておくべき7つの重要なポイントについてお話しします。これらは私が日々の診療で患者さんにお伝えしている内容であり、術後のトラブルを未然に防ぐために役立つものです。

1. 術直後の基本的な注意事項

手術直後は、傷口が完全に閉じるまでの間、細菌感染のリスクを避けるための注意が必要です。まず最も大切なのは、目をこすったり押さえたりしないことです。

手術後に装着する眼帯や保護メガネは、風やホコリ、細菌の侵入を防ぐ重要な役割を果たします。医師の許可が出るまでは、寝るときも含めて外さないようにしましょう。特に手術当日は必ず装着したままにすることが重要です。

また、目に水や汗が入ることは避けなければなりません。洗顔・洗髪・入浴などは、医師の指示に従って控えてください。首から下のシャワーであれば手術当日あるいは翌日から可能ですが、洗髪・洗顔は3〜7日後からが目安となります。

手術直後は特別な食事制限はありませんが、お酒は傷口の炎症を悪化させるおそれがあるため、量にもよりますが手術後1週間程度は控えるようにしましょう。

テレビを見たり読書をしたりすることは基本的に問題ありませんが、長時間の使用は目の疲れにつながるため、適度な休憩を取りながら行うことをお勧めします。

何か異常を感じた場合は、すぐに医師に相談してください。早期発見・早期治療が重要です。

目を清潔に保つための具体的な方法

手術後の目を清潔に保つことは感染予防の基本です。医師から処方された点眼薬は指示通りに使用しましょう。点眼の際は手をよく洗い、目に直接触れないように注意します。

点眼の方法で悩まれる方も多いですが、下まぶたを軽く引き下げて結膜嚢に1滴垂らすのがコツです。点眼後は目を閉じて軽く押さえず、まばたきもせずに30秒ほど待ちましょう。

また、埃っぽい場所や風の強い屋外での活動は控えましょう。外出時は保護メガネやサングラスの着用をお勧めします。特に術後しばらくは紫外線に敏感になっているため、サングラスは目を守る重要なアイテムとなります。

2. 術後の視力回復と見え方の変化

白内障手術後の視力回復には個人差があります。手術当日から良く見えるようになる方もいれば、1週間以上かけて徐々に回復していく方もいます。

手術前は水晶体が濁っている状態でものを見ていたため、手術後には濁りがなくなり、目により多くの光が入るようになります。そのため、術後はまぶしさを感じることがあります。これは時間の経過とともに徐々に慣れていくことが多いですが、長期間続く場合は医師に相談してください。

また、物が青みを帯びて見える「青視症」を感じる方もいます。これは手術前の水晶体が加齢によって黄色味を帯びていたため、青色をはじめとする短波長の光が目に入りにくくなっていたことが原因です。透明な眼内レンズに交換されたことで、以前より青色が強く感じられるのです。

夜間に自動車のライトがまぶしく感じたり、光の周りに輪がかかったように見えたりすることもあります。これは眼内レンズで反射した光が散乱することで起こる現象で、時間とともに気にならなくなることが多いです。

視力安定までの期間と対処法

視力が安定するまでには、個人差はありますが、手術後1〜2ヶ月程度必要です。この間は視力が変動することがありますので、あまり心配しないでください。

まぶしさが気になる場合は、サングラスの着用が効果的です。室内でも明るさが気になる場合は、薄めの色のサングラスを使用するとよいでしょう。

視力が十分に回復しない場合は、網膜や視神経などに異常がある可能性もあります。手術前の検査で見つからなかった問題が、白内障の濁りが取れたことで初めて判明することもあります。気になる場合は遠慮なく医師に相談してください。

3. 日常生活への復帰タイミング

白内障手術後、日常生活に戻るタイミングは活動内容によって異なります。個人差もありますので、医師の指示に従うことが大切です。

軽い家事や事務作業などは、医師の許可があれば翌日から無理のない範囲で行うことができます。ただし、重い物を持ち上げたり、前かがみの姿勢を長時間続けたりするような作業は、眼圧上昇につながるため避けましょう。

埃っぽい場所での作業は、手術後の目の表面についた傷から細菌が入りやすいため注意が必要です。特に農作業や土いじりなどは2週間程度控えることをお勧めします。

私の患者さんで、手術翌日から庭仕事を再開してしまい、目に異物が入って炎症を起こしてしまった方がいました。「もう大丈夫だろう」という油断が思わぬトラブルを招くことがあるのです。

運転・仕事・入浴のタイミング

車の運転は、視力の回復具合によりますが、原則として手術直後は禁止です。眼帯が取れるタイミングか、医師の許可がおりるまでは控えましょう。おおむね1週間程度で許可が出ることが多いですが、視力が回復したと思っていても、見え方に慣れていないことがあります。

仕事への復帰は、内容によって異なります。デスクワークなどの軽作業であれば早期に復帰可能ですが、肉体労働やスポーツ指導などは術後2週間程度控えることをお勧めします。

入浴については、シャワーは手術の翌日から可能ですが、顔に水がかからないよう注意してください。浴槽につかることは、血圧上昇や汗による感染リスクを考慮して、1週間程度控えるのが安全です。

温泉や水泳、サウナなどは1ヶ月程度控えることをお勧めします。特に公共の施設では感染リスクが高まるため注意が必要です。

旅行は手術後1週間程度で可能になることが多いですが、海外旅行や長期の旅行は1ヶ月程度控えることをお勧めします。万が一のトラブル時に適切な医療機関にかかれるかどうかを考慮する必要があります。

4. 点眼薬の正しい使用方法

白内障手術後は、感染予防や炎症を抑えるための点眼薬を使用します。これらの薬は術後の回復において非常に重要な役割を果たします。

点眼薬は医師の指示通りに使用することが大切です。一般的には抗生物質の点眼薬、ステロイド点眼薬、非ステロイド性抗炎症点眼薬などが処方されます。

複数の点眼薬を使用する場合は、薬の間隔を5分以上あけることをお勧めします。これは先に点眼した薬が洗い流されないようにするためです。

点眼の順番も重要です。一般的には防腐剤を含まない人工涙液を最初に、抗生物質の点眼薬、ステロイド点眼薬、非ステロイド性抗炎症点眼薬の順番で使用します。ただし、医師から特別な指示がある場合はそれに従ってください。

点眼薬の保存と使用期限

点眼薬は室温で保存し、直射日光を避けましょう。開封後は1ヶ月を目安に使い切ることをお勧めします。使用期限が過ぎた点眼薬は効果が低下したり、細菌が繁殖したりする可能性があるため使用しないでください。

点眼時は、点眼ボトルの先端が目やまつ毛に触れないように注意しましょう。触れてしまうと点眼薬が汚染される可能性があります。

点眼後は、目頭の涙点を指で軽く押さえると、薬が鼻涙管に流れ込むのを防ぎ、目の中に薬が留まる時間が長くなります。これにより薬の効果を高めることができます。

私の診療では、点眼薬の使用方法を誤解している患者さんをよく見かけます。「1日3回」と指示された薬を「朝・昼・晩」と解釈せず、起きている間に均等な間隔で使用することが重要です。

5. 術後に注意すべき症状と対処法

白内障手術後に異常を感じた場合は、早めに医師に相談することが重要です。特に以下の症状がある場合は注意が必要です。

急激な視力低下や強い痛み、充血が強くなる、光に対する過敏症が極端になるなどの症状は、術後眼内炎などの重篤な合併症の可能性があります。これらの症状を感じたら、すぐに医療機関を受診してください。

術後眼内炎は非常にまれな合併症ですが、発症すると視力に重大な影響を及ぼす可能性があります。早期発見・早期治療が非常に重要です。

また、飛蚊症(目の前を小さな虫やゴミのようなものが飛んで見える症状)を感じる方もいます。これは目の中のゼリー状の硝子体の濁りによるもので、白内障の濁りが取り除かれたことで自覚症状が出現することがあります。多くの場合は心配ありませんが、急に増えたり、閃光を伴う場合は網膜剥離の可能性もあるため、すぐに医師に相談してください。

ドライアイへの対処

手術後に目が乾くと感じる方も少なくありません。もともと軽度のドライアイがあった方が手術を受けると、症状が一時的に悪化する場合があります。

手術自体や手術後の点眼薬による刺激が原因となることが多く、通常は2〜3ヶ月で症状は落ち着きます。症状が気になる場合は、人工涙液の使用や、医師に相談してドライアイの治療を受けることをお勧めします。

私の経験では、術後のドライアイは意外と多くの患者さんが経験する症状です。「手術は成功したのに、なぜか目が乾く」と心配される方も多いのですが、これは正常な術後経過の一部と考えられます。

6. 眼鏡作成のタイミングと選び方

白内障手術前に使用していた眼鏡は、術後はほとんどの場合で合わなくなります。新しい眼鏡を作成するタイミングは、視力が安定してからが適切です。

一般的には術後1〜2ヶ月程度で視力が安定するため、それまでは一時的な眼鏡で対応することをお勧めします。生活に支障がある場合は、医師と相談の上、一時的な眼鏡を作ることも検討してください。

眼内レンズの種類によっても、必要な眼鏡は異なります。単焦点眼内レンズの場合、遠くを見るためのレンズを選択した場合は近くを見るための老眼鏡が、近くを見るためのレンズを選択した場合は遠くを見るための眼鏡が必要になります。

多焦点眼内レンズを選択した場合でも、完全に眼鏡が不要になるわけではありません。細かい作業や長時間の読書などでは、補助的に眼鏡を使用することで目の疲れを軽減できることがあります。

術後の乱視と眼鏡矯正

白内障手術後に左右の見え方が違うと感じる場合、多くは術後に残っている乱視が原因です。眼鏡での乱視矯正を行うことで改善されることが多いです。

乱視矯正用の眼内レンズを使用していても、完全に乱視が矯正されないこともあります。また、手術による角膜の形状変化で新たな乱視が生じることもあります。

眼鏡を選ぶ際は、UV加工やブルーライトカット機能など、目を保護する機能も検討すると良いでしょう。特に術後は紫外線に敏感になっていることが多いため、外出時用のサングラスも用意しておくと便利です。

7. 長期的な目の健康管理

白内障手術後も、定期的な眼科検診を受けることが重要です。手術が成功しても、緑内障や加齢黄斑変性症などの他の眼疾患のリスクは残ります。

特に後発白内障(眼内レンズの後ろにある後嚢が濁る現象)は、白内障手術を受けた方の約20〜30%に発生すると言われています。視力低下やかすみ、まぶしさの増加などの症状が現れた場合は、医師に相談してください。

後発白内障はレーザー治療で簡単に改善できることが多いので、過度に心配する必要はありません。数分程度の外来治療で対応可能です。

また、眼内レンズ自体は半永久的に使用できるものですが、まれに位置がずれたり、混濁したりすることがあります。定期検診で異常が見つかれば、適切な対応が可能です。

日常的な目の保護と健康維持

白内障手術後も、目の健康を維持するための生活習慣は重要です。紫外線から目を守るためのサングラスの着用、バランスの良い食事、適度な運動、十分な睡眠などが目の健康維持に役立ちます。

特にルテインやゼアキサンチンなどの抗酸化物質を含む緑黄色野菜や、オメガ3脂肪酸を含む青魚などは、目の健康に良いとされています。

また、長時間のスマートフォンやパソコン使用による目の疲れを防ぐために、20分ごとに20秒間、20フィート(約6メートル)先を見る「20-20-20ルール」を実践することもお勧めします。

私は患者さんに「手術で視力は回復しても、目の健康は日々のケアで守るものです」とお伝えしています。手術は目の健康管理の一部に過ぎず、その後の生活習慣も非常に重要なのです。

まとめ:白内障手術後安心して回復するために

白内障手術後の回復を安全に進めるためには、医師の指示に従い、適切なケアを行うことが重要です。術後の注意点を守ることで、合併症のリスクを減らし、視力の回復をスムーズに進めることができます。

特に術後1週間は感染予防のために注意が必要な期間です。目をこすらない、洗顔や入浴を控える、点眼薬を正しく使用するなどの基本的なケアを心がけましょう。

視力の回復には個人差があり、完全に安定するまでには1〜2ヶ月かかることを理解しておきましょう。その間に感じるまぶしさや色の見え方の変化は、多くの場合時間とともに改善します。

日常生活への復帰は段階的に行い、無理をしないことが大切です。特に車の運転や激しい運動は医師の許可を得てから行いましょう。

何か異常を感じた場合は、早めに医師に相談することが重要です。早期発見・早期治療が合併症の予防につながります。

白内障手術は非常に成功率の高い手術ですが、術後のケアも成功の重要な要素です。この記事でご紹介した7つのポイントを参考に、安心して回復過程を進めていただければ幸いです。詳しい情報や個別の相談は、お近くの眼科医院や 十川眼科 までお気軽にご相談ください。

著者情報

医療法人社団光健会 十川健司

日本眼科学会専門医・網膜硝子体学会所属

医学博士・眼科手術学会所属

視覚障害書用補装具適合判定医

ボトックス施注資格認定医