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白内障手術の痛みは?麻酔方法と術中・術後の痛み対策を専門医が解説

白内障手術の痛み、多くの方が抱く不安

白内障手術は現代医療の中でも特に安全性が高く、痛みに対する配慮も十分になされている手術です。年間約170万件以上が国内で実施されており、多くの患者さんが「思ったより楽だった」と感想を述べられます。

この記事では、白内障手術における痛みの実態と、それを最小限に抑えるための麻酔方法について、私の臨床経験を踏まえながら詳しく解説していきます。手術前の不安を少しでも和らげ、安心して治療に臨んでいただけるよう、具体的な情報をお届けします。

白内障手術の基本と所要時間

白内障手術とは、濁った水晶体を取り除き、代わりに人工の眼内レンズを挿入する治療法です。

手術時間は通常5~10分程度。驚くほど短い時間で完了します。切開創はわずか約2.4mmと非常に小さく、体への負担を最小限に抑えた「低侵襲手術」として確立されています。この小さな切開で済むのは、眼内レンズを折りたたんで挿入できる技術が発達したおかげです。

手術の具体的な流れ

手術は以下のステップで進行します。まず、洗眼と点眼で目を清潔にし、瞳孔を開く処置を行います。次に麻酔を施し、約2.4mmの小さな切開を作成。超音波で水晶体を砕きながら吸引し、折りたたんだ眼内レンズを挿入して固定します。

切開創は眼圧によって自然に塞がるため、縫合の必要はありません。消毒薬を点眼して手術は終了です。術後は院内で30分ほど安静にしていただき、問題がなければご帰宅いただけます。

日帰り手術が可能な理由

技術の進歩により、現在ではほとんどの白内障手術が日帰りで実施されています。ただし、一人暮らしの方やご高齢の方、糖尿病など管理が必要な病気をお持ちの方は、入院での手術をお勧めする場合もあります。患者さんの心身に最も負担がかからない方法を選択することが肝要です。

白内障手術の痛みを抑える麻酔方法の種類

痛みを抑えるための麻酔方法には、いくつかの選択肢があります。

最も一般的なのは点眼麻酔です。目薬タイプの麻酔薬を使用するため、注射の痛みもなく、ほとんどの患者さんはこの方法で十分な効果を得られます。

点眼麻酔の特徴と効果

点眼麻酔は鎮痛効果が高く、手術中の痛みをほぼ感じさせません。意識ははっきりしているため、医師との会話も可能です。ただし、作用時間がそれほど長くないため、手術時間が延びることが予想される難症例では、他の麻酔を併用することもあります。

前房麻酔とテノン嚢下麻酔

点眼麻酔だけでは不十分な場合、前房麻酔を追加します。これは防腐剤無添加のリドカイン(1%の低濃度)を前房内に直接注入する方法で、手術中の痛みを効果的に抑えられます。注射の必要がなく、回復が早いのが利点です。

さらに強い麻酔が必要な場合は、テノン嚢下麻酔を選択します。結膜の一部を切開し、眼球周囲に麻酔薬を染み込ませる方法です。視神経も麻酔がかかるため、手術中の眩しさも軽減されます。ただし、注射する際の痛みや出血、眼圧上昇のリスクがあるため、慎重に適応を判断します。

笑気麻酔という選択肢

手術への不安が強い方には、笑気麻酔の併用をお勧めしています。鼻から笑気ガスを吸入することで、リラックスした状態で手術を受けられます。意識はなくならず会話もできますが、程よく力が抜けて緊張が和らぎます。

笑気麻酔は虫歯治療でも子どもに使用される安全な方法です。使用を中止するとすぐに体外へ排出され、手術後の影響も少ないのが特徴。ただし、効き方には個人差があり、軽いめまいや吐き気を感じる方もいらっしゃいます。

白内障手術中の痛みの実態

「実際のところ、手術中は痛いんですか?」

この質問への答えは明確です。適切な麻酔を行えば、手術中の痛みはほとんどありません。多くの患者さんから「痛みを感じなかった」「思ったより楽だった」という感想をいただきます。

ただし、痛みではなく「圧迫感」や「水が流れる感覚」を感じることはあります。これは正常な反応で、心配する必要はありません。手術が始まったのかどうかわからないまま終わるケースも少なくないのです。

痛みを感じやすい方への配慮

痛みの感じ方には個人差があります。特に以下のような方は、追加の麻酔を検討します。

  • 手術中に眼があまりにも動いてしまう方
  • 言葉が話せない方や難聴の強い方
  • 手術時間が長くなることが予想される難症例の方
  • 合併症の発生が術前より予想される方

患者さんの状態をしっかりと見極め、最適な麻酔方法を選択することが、安全な手術への第一歩となります。

白内障術後の痛みと対策

手術が終わった後の痛みについても、気になる方が多いでしょう。

術後の痛みは、ほとんどの場合軽微です。違和感や異物感を感じることはありますが、強い痛みを訴える方は稀です。ただし、目の表面についた傷は数日間残るため、この期間は特に注意が必要となります。

白内障術後の注意点と過ごし方

手術直後には、いくつかの制限事項があります。目を押さえない、お酒を控える、洗顔・入浴を控える、眼帯や保護メガネを外さない、化粧・スポーツを控えるといった点です。

これらの制限は、傷口から細菌が入るのを防ぐためのもの。首から下のシャワーであれば手術当日あるいは翌日から可能ですが、洗髪・洗顔は3~7日後からが目安です。眼帯や保護メガネは、細菌の侵入を防ぐだけでなく、風やホコリ、紫外線からも目を守ります。

見え方の変化と違和感

術後に「まぶしい」と感じる方が多くいらっしゃいます。これは、濁っていた水晶体を通して見ていたのが、手術で急に濁りがとれて大量の光が入るために起こる現象です。時間が経過するとあまり感じなくなりますが、まぶしさが続く場合はサングラスの使用をお勧めします。

また、物が少し青みを帯びて見えることもあります。手術前は水晶体が加齢によって黄色味を帯びており、青色をはじめとする短波長の光が目に入りにくくなっていました。手術後はこの濁りがなくなるため、青みを感じやすくなるのです。

白内障手術の痛みを最小限にするための工夫

私たちのクリニックでは、患者さんの痛みや不安を最小限にするため、さまざまな工夫を行っています。

まず、術前の十分な説明です。手術の流れ、麻酔の方法、予想される感覚について詳しくお話しすることで、不安を和らげることができます。未知のものに対する恐怖は、正しい知識によって軽減されるものです。

低濃度笑気ガス麻酔の導入

新たな取り組みとして、ご希望の方には低濃度笑気ガス麻酔を併用しています。「手術が怖い」「痛いのが不安」という方に特にお勧めの方法です。

低濃度笑気ガス麻酔は、意識はなくならず会話もできますが、程よく力が抜けてリラックスできる状態になります。ガスを止めるとすぐに麻酔効果がなくなるため、術後の回復も早いのが利点です。

最新設備による安全性の向上

当院では、眼圧が上がりにくい特別な機械を使用しています。術中の眼圧上昇は術後の合併症リスクを高める可能性がありますが、最新の機器を用いることで、このリスクを大幅に低減できます。

また、手術場・手術器具は常に清潔に保たれており、感染症のリスクも最小限に抑えられています。手術前後の感染予防の点眼も徹底して行います。

白内障手術の痛に関するよくある質問と回答

Q1: 白内障手術は本当に痛くないのですか?

適切な麻酔を行えば、手術中の痛みはほとんどありません。点眼麻酔だけでも十分な効果があり、多くの患者さんが「痛みを感じなかった」と述べられます。痛みではなく、圧迫感や水が流れる感覚を感じることはありますが、これは正常な反応です。

Q2: 麻酔の注射は痛いですか?

基本的には点眼麻酔を使用するため、注射の痛みはありません。必要に応じて前房麻酔やテノン嚢下麻酔を追加する場合がありますが、これらも痛みを最小限に抑える工夫がなされています。特に前房麻酔は注射の必要がなく、負担が少ない方法です。

Q3: 手術中に目が動いてしまったらどうなりますか?

点眼麻酔では眼の動きを完全に止めることはできませんが、経験豊富な執刀医であれば、わずかな動きに対応できます。ただし、あまりにも動く場合は、他の麻酔を併用することで安全性を高めます。手術中は医師の指示に従い、できるだけリラックスして静止していただくことが大切です。

Q4: 術後の痛みはどのくらい続きますか?

術後の痛みは、ほとんどの場合軽微で短期間です。違和感や異物感を感じることはありますが、強い痛みを訴える方は稀です。目の表面についた傷は数日間で治癒し、それに伴って違和感も軽減していきます。痛みが強い場合や長引く場合は、すぐに医師にご相談ください。

Q5: 手術が怖くて不安です。どうすればいいですか?

不安を感じるのは当然のことです。まずは担当医に不安な点を具体的に伝えてください。十分な説明を受けることで、不安は大きく軽減されます。また、笑気麻酔の併用も検討できます。手術後の新しい生活、楽しい日々を想像することで、期待が不安を乗り越える助けになるでしょう。

まとめ:安心して手術に臨むために

白内障手術における痛みは、適切な麻酔によってほぼ完全に抑えることができます。

点眼麻酔を基本とし、必要に応じて前房麻酔、テノン嚢下麻酔、笑気麻酔を組み合わせることで、患者さん一人ひとりに最適な痛み対策を提供できます。手術時間も5~10分程度と短く、体への負担も最小限です。

術後の痛みも軽微で、適切なケアを行えば数日で違和感も軽減していきます。手術後には、濁りのない視界で見る世界が待っています。お孫さんとの時間、読書、趣味の活動など、新しい生活への期待を持って、安心して手術に臨んでいただければと思います。

白内障手術は決して怖い手術ではありません。正しい知識と信頼できる医師のもとで、新しい視界を手に入れてください。

白内障に関するご相談や検診をご希望の方は、十川眼科にお気軽にご連絡ください。

著者情報

医療法人光健会 理事長 十川健司

  • 日本眼科学会専門医・網膜硝子体学会所属
  • 医学博士・眼科手術学会所属
  • 視覚障害者用補装具適合判定医
  • ボトックス施注資格認定医